犬を叱るということ

2017/10/21
横浜臨港パーク

行動分析学では、「行動が増えた状態」のことを「強化」と言います。
そして、「行動が減った状態」のことを「」と言います。 ※近年では「弱化」とも言われています。

 

叱ったら罰になるのではありません。また褒めたから強化になるのでもありません。気をつけることは、
どちらも、行動が「増えているか」「減っているか」を、客観的に確認してから、「強化」なのか「罰」なのかが決まるということです。

もう少し分かりやすく説明すると、褒めたことである行動が増えた場合、褒めたことがご褒美となります。
叱ったことである行動が減った場合は、叱ったことが罰となります。

何度叱っても良くない行動が減らなかったら、叱るという罰が効いていないということです。
どれだけ無視しても好ましくない行動が減らなかったら、無視するという罰は効果がないということです。

話が難しくなるのでとりあえずここでは、犬を叱ったり無視したりすることを「罰」としておきます。

犬に罰を使うと、以下のような副作用があるので叱らないようにしましょうと、
行動分析学を学んだ、多くのドッグトレーナーの人たちが唱えているみたいです。その理由として、

 

①   罰を使うと飼い主を怖がり、信頼関係が築けない。

②   罰を使った時の状況と、罰を関連して結び付けてしまう。

③   代替となる行動が出る。

④   中途半端な叱り方は、ご褒美となってしまう。

⑤   攻撃行動を誘発するかもしれない。

⑥   どんな学習をするかがわからない。

 

などです。私の経験上、確かにこのような副作用が稀に出ることがあります。
ただし、上に挙げたものが全てではありません。以下、↑に述べた副作用についての解説になります。

 

① の、「飼い主さんを怖がるようになる」という面では、四六時中叱られていたら話は別ですが、
そうでなければ、絶対に↑のようなことは起こりません。なぜなら飼い主さんは、犬が世界で一番好きな存在だからです。
その証拠に、犬を叱った後のあの立ち直りの早さを見ればわかるでしょう。

 

例えば、私の所に週1回レッスンに来ていつも怒られていたら犬は僕の所に来たがらないでしょう。
とくに、無駄吠えの問題行動矯正レッスンで僕の所に来る犬たちは、
まずきっちり叱られることから始まるので、僕を怖がる犬は稀にいます。

 

しかし、レッスンが進むにつれて、犬達はどんどん僕を好きになってくれます。それは何故かというと、
僕に叱られる時は、吠えた時だけで、叱られることに一貫性があるからです。

犬は、四六時中吠えている訳ではありません。僕は犬がおとなしく良い子にしている時は、
ほったらかしにせず、必ず褒めたりおやつをあげたりしてご褒美を与えています。

そうすると、犬は「吠えれば叱られる、吠えないで良い子にしていれば褒められる」という事を学習し、

その結果、良い行動を選択するようになります。そして、その良い行動に対して褒めたり、
おやつをあげたりご褒美を与えることを続ければ、犬は必ず吠えない方を(利益)学習し選択します。

 

ちなみに行動分析学でこの強化の仕方を、「正の強化」を使った「他行動分化強化」と言います。

この「他行動分化強化」については、その内ブログでお話しします。

 

② は、私の生徒さんが出張のトレーナーさんに来てもらって、犬が吠えた時に缶を投げて驚かすという方法を教わったところ、
そのうち犬が缶を見ただけで、逃げるようになったとの事です。この方法は、多くのトレーナーたちが推奨しているみたいです。
私はこの方法は絶対に行ないません。また治ったという話も聞いたことがありません。なぜなら、音に慣れて効かなくなるからです。

 

③ は、たとえばおしっこを失敗したら、鼻先を床に押し付けるというとんでもない罰がありますが、

この場合は、飼い主の見えない場所で隠れて排泄をするようになることがあります。
そして、これも犬を家畜として扱う古典的なしつけ方です。
 

④ は、犬がお散歩の時に他の吠えた時に、「怖くない、怖くない」とか「お友達でしょー」「ワン言わない」などと、
優しい声で犬に声をかけている飼い主(とくに女性)を見かけますが、本人は叱っているつもりでも
完全にご褒美となっている例です。なので、ますます頑張って吠えるようになります。

 

また、おやつで気を引くというのもありますが、
これは犬が吠える度におやつというご褒美を与えていることになるので、全く効果はありません。

 

⑤ は、すでに攻撃性を持っている犬を叱ったり、体罰を与えたりすると、余計に逆切れして向かってくる犬がいます。

大抵の犬はきつい叱責を与えると、服従の姿勢を見せるのですが、中には死ぬまで戦おうとする犬もいます。

 

⑥ は、その通りですね。罰を与えるだけでは、いつまでたっても飼い主が望む行動は覚えません。
正解を教えてもらっていないのですから。よく「うちの犬は馬鹿だから」という飼い主がいますが、
それは、犬は「叱ればいけないことが分かる」と思っているからです。犬にしてみればいい迷惑ですね。

 

多くの飼い主の方が、犬が好ましくない行動をした時に叱って止めさせようとします。
しかし、「何が悪いかの理由づけと反省ができない」犬をいくら叱っても、好ましくない行動が減ることはありません。

ただし、これは叱ってはいけないということではありません。

また、厳しすぎる叱責を与え続けると、犬に「卑屈さ」を植え付けることになり、本来、天真爛漫だった子が、

暗~い性格に変わってしまうということもあります。訓練所に預けるとそういう風になることが多いです。

 

大切なことは、好ましくない行動=間違いを叱って止めさせようとするのではなく、
好ましい行動=正解を日々の生活の中でただひたすら教え続け、その好ましい行動がやがて習慣になるまで諦めずに続けるのです。
 

しつけ習慣なのです。

 

いまだにしつけと訓練、トレーニングが混同されています。

もし、私が犬に持って来いや、フリスビーなどを教えたくてトレーニングをする場合は、モチベーションを大切するので

絶対に叱りません。なぜなら、叱って上達することはありえませんから。人にテニスを教える時も同じです。

 

トレーニングをする時は、犬の希求性が大切なのです。出来ないからといって叱ると、モチベーションが下がり、

覚えることを拒絶してしまうのです。これがイルカのトレーニングだと水中に潜ってしまい、絶対にやろうとしません。


しつけとは、犬も人間も「やってもよいこと=好ましい行動」を教えることです。
同時に「やってはいけないこと=好ましくない行動」も教えなければなりません。
 

犬が好ましくない行動をした時、そして、それが周りに迷惑をかける行為であった時は、

それは「して欲しくない」ということを、犬に理解してもらう必要があります。

 

犬にとってどのような行動をしてはイケないのか、きちんと感情が伝わるように叱るのであれば、
叱っても構いません。なぜなら、犬はその感情をちゃんと読み取ってくれるからです。
犬は、あなたが本気で叱っているかどうかはすぐわかります。私はこの部分を一番大切に考えています。

 

ある哺乳類動物の研究でも、親にきちんと叱られることに愛情を感じ、叱ってくれる親にすがろうとすることが認められています。
そして、どんなに叱られてもあなたの犬は、あなたに変わることのない永遠の愛情を向けてくれるのです。

 

しかし、反省と後悔ができない犬をただ叱るだけでは、犬は好ましくない行動をどう改めればよいかはわからないのです。

まして叱って犬がお利口になるなら誰も苦労しません。どちらにしても、善悪の概念がない犬に何を叱ったとしても、

犬にとっては理不尽な事ばかりだと私は思っています。

 

たとえあなたが些細なことで短気を起こして叱ったとしても、私はそれでいいとも思っています。

なぜなら、犬はあなたの「家族」であり、子供なのですから。
家族であれば、ちょっとしたことで親子げんかも、夫婦げんかもするでしょう。でも、それが家族なのです。
 

あなたが些細なことで愛犬を叱って、それが理不尽なことだったなーと、後々思われることもあるでしょう。
でもそれでいいのです。なぜなら、いつか来る別れの日に、あなたは愛犬にきっとこう謝るからです。

「ごめんね・・・あの時あんなことで叱って・・・」と。
 

それでもあなたの愛犬は、そんなことさえ覚えていないでしょう。その別れの瞬間、犬にあるのは楽しかった思い出と、
あなたに対する感謝だけなのですから。そして、これだけは覚えておいてください。

 

・どんなに頑張っても、犬たちが私たちに向ける愛情には勝てないということ。

 

・犬たちは、常に私たちに話しかけ問いかけてくれているということ。

 

・どんなに叱られても、あなたの愛犬はあなたのことが大好きだということを・・・。

 

最後に私の師匠である、盲導犬訓練士 多和田 悟氏から教わった言葉を紹介します。

 

【Noは教えなければならないが、Noで何かを教えることはできない。】