いまだに犬のしつけと言えば、「スワレ」や「マテ」などを教える事だと思われています。
しかし、これらの事をいくら教えても、日常生活で何も問題を起こさず、
好ましくない行動をしないという事とはまったく別な話です。
以前、以下のようなお問い合わせがありました。※犬種と名前は変えてあります。
『ジャーマン・シェパードのオリバーは、生後6ヶ月の時、1年間訓練所に通い、基本的なしつけを受けました。
スワレ、フセ、マテ、コイ、ツケ等の命令にもきちんと従い、この点では特に問題を感じていません。
朝・夕のお散歩は自転車に併走する形で、5Km程走っていますが、きちんと横について、
人や他の犬とすれ違ったりしても吠えることはありません。ところが、以下の点については、
どのようにしても言うことを聞かず、深刻な問題だと思い、妻から何とかしてほしいと言われ困っています。
問題行動 ①
電話が鳴った途端、および玄関のピンポンがなった途端、ワンワンワンワンと吠え続けて部屋中を走り回ります。
電話機を持って別の部屋に行かないと、うるさくて通話ができないほどです。
問題行動 ②
独立した娘たちや知人が家に来ると、うれしさのあまり飛びついて仕方がありません。非常にジャンプ力があるので、
危なくて放置できないためケージに入れると、そこでワンワンワンワンと、吠え続けて困っています。
以上の2点について、是非矯正したくご相談したい次第です。よろしくお願いします。』
飼い主の方は、警察犬訓練所のしつけ教室に行かれたのですが、警察犬訓練所における基本的なしつけとは、
スワレ、フセ、マテ、ツイテ、コイの5つの動作を教えることです。
そして、この「犬のしつけ」とも思われている、これらの動作を教えることを「服従訓練」と呼んでいます。
この服従訓練の目的とは、人間の仕事を手伝う使役犬になるためのものです。
そして、何か仕事で街に出動した際に、匂いを嗅いだり他の犬に近づいたりなど、
好き勝手に自由に行動していたら、とうてい警察犬や災害救助犬など、使役犬としての仕事は勤まりません。
ですので、様々な作業の訓練の前に、指示された命令のみに従うように、この服従訓練が行なわれるというわけです。
訓練には、常に「緊張感」と「集中力」が求められるので、指示も「座れ!」「待て!」と厳しく言わなければなりません。
しかし、人間の仕事を手伝わない無職の家庭犬の暮らしとは「リラックス」です。
家庭犬のしつけとは、むやみに吠えないとか、拾い食いをしないとか、他の犬と上手に挨拶ができるとか、
日常生活での好ましい行動や好ましくない行動=ルールを教えてあげることです。
使役犬として、指示された命令に忠実に従わせる家畜化が目的の訓練と、
家庭犬として、共に暮らすための家族化としてのしつけは、まったく別なものなのです。
問題行動 ① は「吠えないしつけ」 そして、問題行動 ② は「我慢のしつけ」になります。
私は、この2つのしつけを一番重要に考えています。(※我慢のしつけとは、ご飯の時にマテをさせることではありません。)
この2つこそが、現在における家庭犬のしつけで、最も大切なしつけではないでしょうか?
スワレやマテは完璧に出来るけど、吠えるのはどうにもならないレッスンと、
スワレやマテはあまり上手に出来ないけど、絶対吠えないレッスンがあったら皆さんはどちらを選びますか?
日本でもひと昔と比べると、しつけ教室の数はずいぶん増えました。
しかし、多くのしつけ教室で教えている内容は、おやつを使うとか使わないなどの形の違いこそあれ、
現在の家庭犬のしつけは、前述した服従訓練が基盤となっています。
もし、あなたが愛犬と競技会やアジリティーを目指すのであれば、訓練が必要になります。
しかし、そうでなければ、無職の家庭犬にしつけは必要ですが、訓練は必要ないのです。