Q. 糸山さんはしつけと訓練は違うということを、ずっと言い続けていらっしゃいますが?
そうですね。現在の家庭犬のしつけは、警察犬や災害救助など、
犬に何かをさせる、人間の仕事を手伝わせるための訓練がベースとなっています。
訓練は「服従訓練」と呼ばれ、その訓練に求められることは「集中力」と「緊張感」です。
指示の出し方も「スワレ!」「マテ!」と命令調で言わなければなりません。
しかし、家庭犬の生活の基本は、リラックスです。「座って」とか「待って」と優しく言えばいいのです。
それを無職の家庭犬に、↑の訓練をしつけと称して行うというのは、何かおかしいと思いませんか?
Q. 糸山さんが考える家庭犬のしつけとは?
いまだにしつけと言えば、「スワレや」「マテ」などを教えることだと思われていますが、
現在の家庭犬のしつけにおいて大切なことは、犬をしつけようとする前に飼い主が学ぶことです。
従来のしつけは「主従関係」が前提になっているので、ただ命令して「俺の方が上だぞ!」
という関係を強要することに重点が置かれていたので、飼い主が学ぶ必要がなかった訳です。
しかし、文化も習慣もコミュニケーションの手段も違う人と犬が「共に暮らす」時代になった今、
大切なことは、犬という動物の学習の仕方と習性を、飼い主の方が正しくが学ぶということだと思います。
ただ残念なことに、それそれの方がそれぞれの考え方でしつけを行っているので、
正しく学びたくても、スタンダードなしつけ方がないのが現状です。
Q. そう言われてみれば、よく本に書いてあることが違ったりすることがありますね。
たとえば、犬が何か良くないことをした時に、「マズルを掴んで叱る」 「犬が吠えた時に缶を投げる」
「甘噛みをしたら口の中に手を入れて叱る」 などの、犬を家畜として扱う昔ながらのしつけを指導している訓練士さんや、
ドッグトレーナーさんがいまだにいることには本当に驚かされます。
それと、僕は訓練所で犬が自発的に座ったりした時は、絶対に褒めてはいけないと教わりました。
なぜなら、作業犬は指示された行動以外、勝手に座ったり伏せたりすることは許されないからです。
でも、僕は犬も人間の子供も「自発的行動」が大切だと考えています。
僕が考える理想のしつけは、いちいち指示するのではなく、その場その場に応じた好ましい行動を、
犬が空気を読み自発的に行ってくれ、最終的には、目を見るだけで飼い主の望むことを、理解してくれるような関係を築くことです。
Q. それが訓練でもトレーニングでもない、新しい形のしつけということですね?
そうです。ヴィッセのレッスンは、日常生活で3つのことを行うだけです。
この3つの中に、犬が興奮したりパニックになった時以外は、スワレとかマテとか一切指示することはありません。
もし競技会に出たり、アジリティとかをやりたければ、訓練が必要になります。しかし、そうでなければ、家庭犬のしつけに訓練は必要ないのです。
Q. 糸山さんにとって犬のしつけとは?
僕にとって犬のしつけとは、飼い主と犬がきちんとコミュニケーションが取れるようにすることです。
これまでに、1,500頭以上の犬と飼い主をレッスンしてきましたが、
犬ときちんとコミュニケーションが取れている飼い主を見たことがありません。皆さん独り言はよく言っていますが(笑)
僕が犬のしつけで大切に考えていることは、「心」と「体」の両方を健全に育むことです。
そして、短い一生を健やかに過ごして欲しい。心と体の両方を育むことができたら、
犬も人間の子供も「問題行動」なんか起こすはずがないと思いませんか?
Q. 私も犬と暮らしていますが、今日は大変勉強になりました。ありがとうございました。
ありがとうございます。